エネルギー転換がもたらす保険業界の新しいビジネスチャンスと課題

この記事は、2021年12月13日付のA.M. Best社記事「COP26会議後にスポットライトを浴びる保険のイノベーション」、および2022年1月10日付のCaptive.comの記事をもとに、フォーサイトリスクマネジメント株式会社が独自にまとめたものです。


1.COP26における保険業界への示唆

世界経済が炭素排出社会から脱炭素社会へとエネルギーの転換を目指している中で、保険会社や再保険会社はさまざまな課題とビジネスチャンスの両方に直面するであろうA.M.Best社の最近のレポートが指摘しています。

COP26(国連気候変動会議)開催後に保険会社格付機関であるA.M.Best社が発行した、保険業界のイノベーションに関するレポートが注目されています。同レポートでは、脱炭素化を加速するために必要となる新たな技術開発のサポート資金を、保険会社や再保険会社が機関投資家として提供できると指摘しています。

しかし同時に同レポートは、グローバルなビジネス環境における変化のペースが速まるにつれて、イノベーションを受け入れられない保険会社は、ビジネスを長期的に維持できなくなる可能性を示唆しています。そうした保険会社は最終的に逆選択に直面し、リスクの引受が困難となるでしょう。

このレポートでは、最近行われたCOP26の国際会議において、多くの国が温室効果ガスの排出量削減へのコミットメントを新たに打ち出していることを紹介しています。例えば多くの国々が、森林破壊を阻止する措置を採用したり、石炭使用の段階的廃止を含む排出量削減に関するより広範な計画に次々に同意していることなどが挙げられています。

また、世界中の政府が極端な気候変動シナリオの影響を防ぐことを目的とした法律、規制または実質的な取り組みを検討していることから、保険および再保険業界もこれらの取り組みに参加する必要があることも指摘しています。

更にレポートでは、近年企業の気候関連リスクの開示が増加していることが報告されており、こうしたリスクが企業に重大な財務的影響を及ぼし、企業の財務的安定性に脅威を与える可能性があるという事実を投資家や規制当局または政治家が注目し始めていることが指摘されています。

2.企業の気候リスク対応に対する各国政府や規制当局の動き

こうした認識は、特にヨーロッパの中央銀行や規制当局が企業に課している気候関連リスクの特定、監視および管理に焦点を合わせた新たな開示要件にもつながっています。これらの開示要件は、企業の幅広い取り組みの中でも環境、社会、ガバナンス(ESG)に焦点を当てた取り組みの一部を構成しています。

また、昨年10月に英国政府が英国最大の企業および金融機関に対して、気候に関する財務情報の開示タスクフォースに沿った開示要件を提示し、早ければ4月までに気候関連財務データを開示するよう要求したことも伝えられています。

A.M.Best社は、企業が、これらの気候関連データを従来の企業の開示データに加えて開示していくことにより、現在不充分である企業情報の開示状態の均一性を担保するだろうと述べています。

一方、保険会社や再保険会社はリスクを引き受ける事業会社であると同時に、資産運用を行ったりする機関投資家としての立場もあることから、政府が奨励するこうした気候変動リスクに関する取り組みに独自に貢献する機会もあるはずだとA.M. Best社は述べています。

同社が実施した保険会社や再保険会社の調査により、ヨーロッパ、アジア太平洋地域および米国においては、生命保険会社や損害保険会社等の保険業界がESGの取り組みにおいて主要な役割を担っているという認識が明らかになりました。

3.企業のESG取組と保険業界のビジネスチャンス

世界が脱炭素社会に移行するにつれて、事業環境の変化は保険会社と再保険会社のバランスシートの両面に影響を与える可能性が高いとレポートは述べています。こうした移行による変化を受け入れて適切な商品を提供できる保険会社は、ビジネスチャンスを増やすことができるでしょう。

しかし今のところ、こうしたビジネスチャンスが特定できている保険会社や再保険会社は比較的少数です。A.M.Best社によると、2020年のESG調査では、拡大するESG企業によって提供されるビジネスチャンスを特定でき活用できたと報告してきた保険会社は、ヨーロッパとアジア太平洋地域でわずか48%でした。また 2021年に米国で実施された同様の調査では、さらに低い割合であったことが明らかになったとA.M.Best社は述べています。

それでも同社の最新のレポートでは、保険会社や再保険会社が、既存の商品やソリューションを進化させ、目まぐるしく変化するリスク状況に対応する新商品の開発を通じて、脱炭素化に移行する社会のニーズに対応するために、ますます革新的になることを期待している、と述べています。

同レポートでは、エネルギーの転換によって生まれる多くの新たなビジネスチャンスと、それに伴う新しいテクノロジーには、独自の課題も伴うことを認めています。

ビジネスチャンスというのは新しく生まれたリスクには常に存在しますが、そうしたリスクは複雑であり過去のデータもないため、引受保険会社にとっては価格設定が非常に困難ですが、誤った価格設定のリスクは、保険条件上、免責条項や支払限度額を設定することである程度軽減できます。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーの需要が高まる状況の中で、保険の価格設定に必要なデータ不足を補うためにいくつかの経験値を考慮する必要があります。例えば、テキサス州の太陽光風力発電所で起こった最近の雹損害を参考に損害率を評価する等の方法です。

保険業界がエネルギーの転換を支援するのに最も効果的な方法の一つとして、損害防止策に関する指導をしたり、効率的な保険金の支払いを通じて保険契約者の復興を支援する等の方法があります。また、保険商品の設計や販売過程において、より分かりやすく、保険金支払い時の紛争を減らし、保険金の支払いを迅速化できるパラメトリック保険への関心が高まっていることが指摘されています。

同レポートでは、脱炭素化の取り組みには相当の投資が必要だが、機関投資家としての保険会社や再保険会社がそうした新技術の開発を財務的に支援することも可能だと述べています。そうした投資は、企業のポートフォリオ多様化に貢献することが指摘されていますが、環境に配慮することが必ずしも業績や財務信頼性の向上に寄与するわけではないことも併せて指摘されています。従って、潜在的な投資リスクを管理するために、保険会社や再保険会社はESGを他の投資検討事項よりも優先させるのではなく、総合的な投資ポートフォリオの中でESGの要素を取り入れるといった方法をとるべきだというのが同レポートの提案です。

4.企業の脱炭素化傾向とキャプティブ

A.M.Best社はまた、エネルギーの転換が進むにつれて一部の炭素排出企業に対する保険会社が提供するキャパシティの不足が、キャプティブ保険の機会を生み出す可能性があることにも注目しています

即ち、保険業界が炭素排出企業に対して十分なキャパシティやサポートを提供しにくくなる社会に進むにしたがって、キャプティブを使ってリスクコストの高騰を抑えることを検討する企業が増えることも予想されます。


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