2022年世界のキャプティブ保険市場概観(その2)

 前回は2022年の世界のキャプティブ市場の概況についてお伝えしましたが、今回のニュースレター第2弾では、世界各地域のキャプティブ市場の現状について各種データをご紹介しながらお伝えします。


1. 世界の地域別キャプティブ数

 2021〜2022年にかけて世界の稼働キャプティブ総数は6,074件から6,191件へと100件以上(約2%)増加したものの(レンタキャプティブのセルの個数は含まない)、ドミサイルによっては増加と減少の傾向が大きく異なっている。

 特に顕著なのは、米国内ドミサイルの上位10ヶ所中1ヶ所以外のすべてのドミサイルでキャプティブ数は増加したものの、ヨーロッパやカリブ海諸島のドミサイルにおいては、一部を除きキャプティブ数の減少傾向が続いたことである。

 各地域の全世界キャプティブ数に占める割合を見ると、米国・カナダを含む北米地域が54.0%、バミューダ・カリブ海諸島が31.8%、ヨーロッパ・アフリカが10.9%、アジア・太平洋地域が3.2%となっている。以下、各地域におけるキャプティブ市場の動向について述べる。

(表1)2022年度の地域別キャプティブ数

地域シェアキャプティブ数
米国53.8%3,328
カナダ0.3%18
バミューダ・カリブ海諸島31.8%1,971
ヨーロッパ10.8%666
アフリカ0.1%7
アジア・太平洋地域3.2%201
合計100.0%6,191

(1)北米

 米国各州におけるキャプティブ数は、ネバダ州以外は前年比で軒並み増加している。特にノースカロライナ州とサウスカロライナ州では、前年比10%超の増加率を示しており、またアリゾナ州のランキングが2021年度の9位から2022年度には7位へ躍進したのに対して、ネバダ州だけはキャプティブ数が減少傾向にある。また、バーモント州のキャプティブ数は世界の約10.3%を占め、米国ではナンバーワンのドミサイルであり、このペースで増加すると近い将来世界一のドミサイルになる可能性もある。

(表2)米国内ドミサイルの上位10州ランキング(2022年末時点)

順位ドミサイル2022年2021年増加率
1バーモント州(VT)6396203.1%
2ユタ州(UT)419386*8.5%
3デラウェア州(DE)3303135.4%
4ノースカロライナ州(NC)29425714.4%
5ハワイ州(HI)255250*2.0%
6サウスカロライナ州(SC)20518312.0%
7アリゾナ州(AZ)1621498.7%
8ネバダ州(NV)155161▲3.7%
9テネシー州(TN)150148*1.4%
10コロンビア特別区(DC)1131120.9%
* ビジネス・インシュアランス誌(BI誌)により前回集計からアップデートされたデータ

(2)バミューダ・カリブ海諸島

 バミューダおよびケイマンではキャプティブ数の減少傾向が続いているものの、いまだにキャプティブ数では世界第1位および第2位の地位を維持している。一方、その他のカリブ海諸島においても、バルバドス以外は全体的にキャプティブ数が減少傾向にある。オフショアドミサイルとしてのカリブ海諸島でキャプティブ数が減少傾向にある理由の一つには、米国のオフショア拠点に対する規制監視が強まっているのに対応して、企業がキャプティブを米国内のオンショアドミサイルに移転させる傾向があるためである。更に人件費の上昇やパンデミックによるプロの人材の流出により、オフショアドミサイルの魅力が削がれてきている面もある。そうした中で、唯一バルバドスだけがキャプティブ数を増やしている。その背景としては、バルバドスでは他の先進ドミサイルと同程度のプロフェッショナル人材を割安で調達できること、カナダとの間では古くから租税条約を締結していたため多くのカナダ系企業がサイバー保険やD&O保険の投入先としてバルバドスを選んでいること、そして近年中南米諸国との租税条約の締結交渉を進めることで、積極的に中南米新興企業の新規キャプティブを誘致していることなどがある。

(表3)カリブ海諸島ドミサイルのトップ5ランキング(2022年末時点)

順位ドミサイル2022年2021年増加率
1バミューダ660*670*▲1.5%
2ケイマン諸島650**661▲1.7%
3バルバドス315308***2.3%
4ネイビス102122▲16.4%
5タークス&カイコス諸島71710.0%
* BI誌推定 ** ウェブサイトより *** BI誌により前回集計からアップデートされたデータ

(3)ヨーロッパ

 2021年にガーンジーとルクセンブルグはキャプティブ数で1位タイとなったが、2022年にキャプティブドミサイル100周年を迎えたガーンジーが再び盛り返してキャプティブ数で単独1位に返り咲いた。一方、その他のヨーロッパ地域の稼働キャプティブ数が対前年で軒並みマイナスとなっている主な原因は、キャプティブの閉鎖数が他の地域とほぼ同程度であるにも拘らず、ヨーロッパにおける新規キャプティブ設立数が圧倒的に少ないことによる。世界的に保険市場がハードマーケット化する中で新規キャプティブ設立数が低迷している理由には、ヨーロッパでのキャプティブ認可プロセスに時間を要することが一因として挙げられている。米国ドミサイルでは一般的に認可に要する期間が1ヶ月程度であるのに対し、ヨーロッパ諸国のドミサイルでは通常3ヶ月程度かかると言われており、それがキャプティブの新規設立を阻んでいるものと考えられる。

(表4)ヨーロッパのドミサイルトップ5ランキング(2022年末時点)

順位ドミサイル2022年2021年増加率
1ガーンジー2011924.7%
2ルクセンブルグ195*1921.6%
3マン島9899▲1.0%
4ダブリン6668▲2.9%
5スウェーデン29*31▲6.5%
* ウェブサイトより

(4)アジア・太平洋地域

 アジアでは、シンガポールがキャプティブ数は若干減少したものの首位をキープした。キャプティブ数減少の原因は、新型コロナウイルス感染症による厳しい出入国制限の影響と推測される。一方、ラブアンとミクロネシアにおいてはキャプティブ数が伸びている。その背景には、ミクロネシアが日系企業向けのキャプティブニーズに応える体制を整えている一方、ラブアンはアジアのみならず地域外の企業から選ばれるドミサイルとして国際的な競争力強化を目指していることがある。

(表5)アジア・太平洋地域ドミサイルトップ5ランキング(2022年末時点)

順位ドミサイル2022年2021年増加率
1シンガポール8284▲2.4%
2ラブアン67636.3%
3ミクロネシア連邦25238.7%
4ニュージーランド9*9*0.0%
5バヌアツ550.0%
* BI誌推定

2.世界のドミサイル別稼働キャプティブ数ランキング(2022年末時点)

(表6)

順位ドミサイル2022年2021年増加率
1バミューダ660*670*▲1.5%
2ケイマン諸島650**661▲1.7%
3バーモント州(VT)6396203.1%
4ユタ州(UT)419386***8.5%
5デラウェア州(DE)3303135.4%
6バルバドス315308***2.3%
7ノースカロライナ州(NC)29425714.4%
8ハワイ州(HI)255250***2.0%
9サウスカロライナ州(SC)20518312.0%
10ガーンジー2011924.7%
11ルクセンブルグ1951921.6%
12アリゾナ州(AZ)1621498.7%
13ネバダ州(NV)155161▲3.7%
14テネシー州(TN)150148***1.4%
15コロンビア特別区(DC)1131120.9%
16ネイビス102122▲16.4%
17モンタナ州(MT)101102▲1.0%
18マン島9899▲1.0%
19シンガポール8284▲2.4%
20テキサス州(TX)735435.2%
21タークス&カイコス諸島71710.0%
22ラブアン67636.3%
23ダブリン6668▲2.9%
24アンギラ6278***▲20.5%
25コネチカット州(CT)574429.5%
26ジョージア州(GA)5657▲1.8%
27ミズーリ州(MO)54523.8%
28アラバマ州(AL)5157▲10.5%
29オクラホマ州(OK)4745***4.4%
30英領バージン諸島4649▲6.1%
31ニューヨーク州(NY)38**40**▲5.0%
32ケンタッキー州(KY)3234▲5.9%
33スウェーデン29**31▲6.5%
34ミクロネシア連邦25238.7%
35スイス24**25**▲4.0%
35ミシガン州(MI)24240.0%
37セントルシア2023▲13.0%
37ニュージャージー州(NJ)20*200.0%
39ブリティッシュ・コロンビア州1819▲5.3%
39プエルトリコ18*18*0.0%
41アーカンソー州(AR)15147.1%
42サウスダコタ州(SD)1416▲12.5%
42バハマ諸島1414*0.0%
44マルタ1110***10.0%
45ジブラルタル10100.0%
46ニュージーランド9*9*0.0%
46ドイツ990.0%
48リヒテンシュタイン880.0%
49デンマーク78▲12.5%
49エジプト7*7*0.0%
49オハイオ州(OH)7616.7%
52コロラド州(CO)660.0%
52パナマ6**6**0.0%
52ノルウェー660.0%
55キュラソー57▲28.6%
55バヌアツ550.0%
57香港440.0%
57ネブラスカ州(NE)440.0%
57ドバイ44***0.0%
60メーン州(ME)330.0%
60グアム330.0%
62米領バージン諸島23***▲33.3%
62イリノイ州(IL)220.0%
62モーリシャス220.0%
62ジャージー島2*2*0.0%
66カンザス州(KS)110.0%
66ウェスト・バージニア州(WV)110.0%
合計6,1916,074***1.9%
* BI誌推定 ** ウェブサイトより *** BI誌により前回集計からアップデートされたデータ

3.キャプティブマネジャー上位10社

(表7)2022年末時点取扱キャプティブ数による世界のキャプティブマネジャーのランキング

順位会社名2022年度合計取扱キャプティブ数*うち通常キャプティブうち831 (b)マイクロキャプティブうちPCC(セル数)2022年度キャプティブ取扱保険料(百万ドル)**取扱ドミサイル数従業員数
1Marsh Captive Solutions1,5671,40339125
(316)
$69,96354497
2Aon Captive & Insurance Management9879001572
(443)
$54,55948553
3Artex Risk Solutions Inc.8316939048
(1,363)
$17,35035632
4Strategic Risk Solutions Inc.49140586
(580)
$7,23633234
5WTW Captive & Insurance Management Solutions3362911629
(69)
$20,66835225
6Risk Strategies Co. Captives***2303018713
(279)
$9251891
7Davies Captive Management186169116
(285)
$2,5002340
8Brown & Brown Inc.1069115
(20)
$6,8272041
9USA Risk Group978314
(36)
$1,9001125
10Innovative Captive Strategies887018
(49)
$829928
* 2022年末時点で管理されているすべての稼働キャプティブ保険会社数 
** マネジャーまたは代理人として管理しているキャプティブの総引受保険料 
*** Atlas Captives、OxfordおよびRisk Management Advisorsを含む

出典ビジネス・インシュアランス誌(2023年3月号)特集レポート  – キャプティブ保険


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