キャプティブとパラメトリック保険

この記事は、2021年11月1日と10日付のCaptive Review誌の記事をもとに、フォーサイトリスクマネジメント株式会社が独自にまとめたものです。

1.パラメトリック保険とは?

パラメトリック保険とは、指定されたトリガー事象または支払条件に基づいて、事前に取り決められた補償額を支払うという、これまでの保険商品とは異なる保険であり、1990年代からある概念ではあるが、現時点ではまだキャプティブによって広く活用されている訳ではない。

2.キャプティブによるパラメトリック保険の活用

今年のバーモント州キャプティブ保険協会(VCIA)の年次総会において、気候変動リスクに関するインシュアテックのプラットフォームを提供しているArbol社が、キャプティブ向けの革新的なパラメトリック保険商品として「Parametric+Captive」という商品を発表した。同商品は、パラメトリック構造を利用して気候変動リスクをキャプティブに転嫁することにより、企業が気候変動リスクの管理に向けて即座に行動できるよう設計されている。Arbol社のプラットフォームは、AIの学習機能やブロックチェーン・テクノロジーを駆使して、複数の業界にわたるさまざまな気候変動リスクに対応するパラメトリック保険プログラムを個々の企業向けに数分以内にカスタマイズすることを可能にするものである。

3.パラメトリック保険をキャプティブに導入した場合のメリット・デメリット

パラメトリック保険から支払われる補償金は、報告されたパラメータまたはインデックスによって決まり、支払われる額は事前に合意された金額となるため、極めて迅速に補償金を支払うことができる。こうした商品は、従来より早急な処理と即時の支払いが求められる公共部門において、特に人気の高い商品とされる主な理由である。即ちパラメトリック保険は、透明性があるだけでなく、細かい規定や免責条項なしにすぐに補償が行われるという利点がある。

従って、パラメトリック保険をキャプティブに導入した場合、キャプティブは被保険者(=親会社)に迅速に補償金を支払えるようになり、その点においては非常に有益だが、一方でキャプティブがパラメトリック保険を利用すると、後述する「ベーシスリスク」が発生するという欠点もある。

企業の全体的なリスク許容度によっては、パラメトリック保険はキャプティブにとって非常に有意義な解決策になり得るが、すべての企業にとってそうだとは限らない。いくつかの企業にとっては、「ベーシスリスク」は確かにパラメトリック保険の導入のハードルとなる可能性がある。

この問題に対処するために、パラメトリック保険を導入する場合、トリガーの組み合わせを選択することができる。例えば『マグニチュード7.5以上の地震』など1つのトリガーだけでなく、被保険企業が損害を被った場合などの第2のトリガーを設定することによって、実際の損害発生を要件とすることで「ベーシスリスク」を軽減できる。

4.キャプティブにとってのパラメトリック保険の価値

市場のハード化によって顕在化した保険市場の脆弱性は、キャプティブを持つ企業がパラメトリック保険の購入を検討するきっかけとなった。新型コロナウイルスによるパンデミックの予想外の勢いと持続性によって、保険業界の多くの企業は、顧客の問題への新しい解決策を模索するようになった。

ハード・マーケットの圧力と自然災害の増加傾向によって、各企業は、パンデミック以前には恐らく想像もできなかったほどのキャパシティ不足や事業中断リスクに対する解決策を必要としている。

一般企業では、現時点で少なくとも2つの理由からパラメトリック保険に対する関心が高まりつつある。まず、保険料水準の上昇で市場環境が極めて厳しいため、企業は従来の市場に代わる市場を探し求めている。第2に従来の市場では求めるカバーを提供するキャパシティを見つけることができないため、パラメトリック保険でそうしたキャパシティを確保しようとしている。例えば特定の自然災害リスクに対するキャパシティを確保するために、通常の財物保険プログラムからそうした特定の自然災害リスクのカバーを切り離してキャパシティを確保しようという試みがなされている。

そうした中でキャプティブは近年、洪水、地震、ハリケーンなどの不安定な自然災害リスクに対する十分な補償の確保が難しい脆弱な伝統的保険市場の他に、追加的な補償を確保する手段としてパラメトリック保険に注目している。

5.パラメトリック保険の今後の展望と課題

パラメトリック保険は、その設計において極めてオーダーメイド的であるため、従来の保険で問題となっていることの解決策となる可能性がある。

特に気候変動リスクは、パラメトリック保険に関する問い合わせがより多く集中している分野でもある。その中には、気温、降水量、河川水位、干ばつ、洪水に関するリスクもあるが、パラメトリック保険によってカバーされる最も一般的なリスクは、暴風とハリケーンである。

キャプティブ業界においては、パラメトリック保険を応用することに関心が高まっている。ただし問題は、キャプティブがパラメトリック保険を導入した場合、キャプティブの被保険者(=親会社)に対する補償にどのように変換するかという点であり、そこにはより複雑なプロセスが必要となる。

パラメトリック保険に関してよく知られている問題の1つに、いわゆる「ベーシスリスク」がある。通常被保険企業は、自らが被った損失に対する補償を要求するので、キャプティブは損失補償をベースに被保険企業に補償を提供することが求められる。しかし、パラメトリック保険が提供するのは損失補償ではなく、パラメトリック・トリガーに基づく定額の支払いなので、キャプティブがパラメトリック保険で回収できる補償と、実際に被保険企業に提供する損失補償との間には差が生じる可能性がある。その差となる「ベーシスリスク」を、キャプティブは被保険企業に転嫁することができるかという問題がある。

もしベーシスリスクが被保険企業に受け入れられない場合、キャプティブがベーシスリスク部分を負担することとなる。即ち、キャプティブは、パラメトリック保険を購入すると同時に被保険企業に対しては損失補償する保険を提供することにより、キャプティブでベーシスリスクを取ってパラメトリック保険を損失補償カバーに変換する「トランスフォーマー」としての機能を発揮することとなる。

キャプティブの資本金が十分大きくてリスク分散が効いているならば、被保険企業に損失補償の保険を提供しながら効率的なパラメトリック保険を購入することによってトランスフォーマーとして機能することは可能である。しかし実際には、ベーシスリスクがキャプティブにとってパラメトリック保険を購入する上で最も大きな障害となることがよくある。

ただし、キャプティブが購入するパラメトリック保険をより適切にモデル化すれば、ベーシスリスクも低くなる可能性はある。更に今日では、それを軽減するための手段とデータはより多くなっている。しかし実際には、パラメトリック保険の購入者は細かくカスタマイズされているものよりも、一般化された理解しやすい方を好み、またそれを経験則から判断しようとすることがよくある。即ち、パラメトリック保険はどのくらいの頻度で発動するだろうかといった検討をすることで、企業はパラメトリック保険の購入を判断しようとする。

パラメトリック保険は90年代から存在しているが、依然として非常に雑で不正確な商品設計のものが多い。雑というのは、パラメトリックが高度に洗練されておらず、特定の顧客のリスクに合わせて余りカスタマイズされていないことを意味する。というのも、今日の世界ではパラメトリック保険会社が保険市場全体で占める割合はわずかであり、パラメトリック保険の概念自体が損失補償をベースとした巨大な商業保険市場と比較してニッチなままであるためだ。

通常ブローカーが顧客のためにカバーを購入しようとして、パラメトリック保険が必要だと判断した場合、市場から多くの見積りを取得するためにはパラメトリック保険がある程度商品化されていなければならない。例えば暴風パラメトリック商品を例に挙げると、この商品は最も伝統的な商品化されたパラメトリック商品であるが、商品自体は非常に大雑把なので、10社以上の保険会社に見積りを依頼することができる。例えば、ブローカーはある条件を設定し、それに対してそれぞれの保険会社から見積りを取り、それらのオファーを比較しながら最も安いオファーを採用するだけで済む。

ただし、そうしたパラメトリック商品は非常に大雑把な定量化手法で設計されているため、キャプティブが損失補償を求める被保険企業に提供する補償のバックアップとしてこれを購入する場合、キャプティブが負うベーシスリスクは非常に高くなる。一方ブローカーとしては、たった1社の保険会社とだけ交渉したくないので、なるべく多くの見積りを取る必要があるため、パラメトリック保険が商品化されていることと、比較可能な見積りの​​数を絞ることとはトレードオフの関係にあると言える。

また、より洗練された商品としては、例えば顧客が緯度と経度で複数の場所を指定し、それぞれの場所で特定の風速を超える事象が発生した場合に支払われる金額を取り決めると言った商品がある。これは、ハリケーンがどのカテゴリーに該当するかだけでなく、対象となるそれぞれの場所における正確な風速に基づき、事前に定義した金額を支払うという洗練された手法で設計された商品である。

こうした商品では、提供する保険会社が様々なソースから生のデータを入手して、顧客が指定した複数の正確な場所における風速に関する極めて精緻なデータを使用する。これによってベーシスリスクが非常に小さくなるという利点がある一方、こうした正確なデータに基づく商品を提供できる保険会社がそれ程多くないため、顧客が直接比較できる複数の見積りを入手することが困難であるという欠点もある。

通常企業のリスクマネジャーは、最高財務責任者に報告する際に複数の見積りを提示することが求められるが、ベーシスリスクが最も低くなる洗練された商品はそうした複数の見積の取得が困難であり、社内で比較検討することがより難しくなるため、そうした商品は採用されにくくなる。

ただしキャプティブを持つことによって、保険の購入とリスクマネジメントに専念してリスクの軽減策や適切な保険プログラムの購入について分析を行うために必要な全てのデータを備えた部署がグループ内にできれば、キャプティブは親会社のリスクについてよく理解しているため、ベーシスリスクが低く、より洗練されたパラメトリック保険の導入を検討するのに最適な立場を確保することができる。

従って、キャプティブで利用可能なデータをより適切に分析し、親会社グループのリスクをより深く理解した上で、パラメトリック保険などの高度なソリューションに移行することは、キャプティブの機能をさらに進化させるチャンスとなり得る


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