2024年度上半期にロイズ20数年ぶりの新たなキャプティブ・シンジケートが誕生するか?

1.ロイズのキャプティブ制度への大きな関心

 ロイズ戦略革新部門の責任者であるトム・オールボーン・ウェッブ氏によると、ロイズのキャプティブ制度が大きな関心を集めており、2025年には多くのキャプティブ・シンジケートがロイズにおいて組成されると予測している。

 ロイズでは、2024年上半期に20数年ぶりに新たなキャプティブ・シンジケートが誕生すると予想されている。この予想は、2023年10月にルクセンブルクで開催されたヨーロッパ・キャプティブ・フォーラムにおいて、ロイズの戦略革新部門責任者であるトム・オールボーン・ウェッブ氏キャプティブ・レビュー誌に語ったものである。

 同氏によると、既に設立間近の案件の他にも計画中や進行中の案件がいくつかあるとのことで、ロイズとしてはこのキャプティブ制度をさらに展開して、2025年度には多くの新たなキャプティブ・シンジケートが組成することを期待している。

 オールボーン・ウェブ氏は、新たなキャプティブ・シンジケートの設立がこの制度に多くの関心を呼ぶと考えており、もしそうなれば、キャプティブ相互間の情報拡散によって2025年度には新たなキャプティブがロイズで大量に組成されるだろうと予測している。

 ロイズで最初にキャプティブ・シンジケートが設立されたのは1999年であり、当時英国の大手製薬会社スミスクライン社によって設立されたが、2001年に同社がグラクソ社によって買収されて以降同キャプティブは閉鎖されてしまい、それ以来ここ数年前までロイズのキャプティブ制度に対する問い合わせは殆んどなかった。

 ところが、2022年にロイズがキャプティブ・シンジケート設立の新制度の枠組みを発表して以来、2023年には同制度を再度利用しようとする動きが出始め、それ以降100件以上もの問い合わせが殺到しているとのこと。

 しかし、ロイズのキャプティブ設立プロセスには通常約6か月かかると言われており、その殆んどがキャプティブにおけるガバナンスに関するプロセスであり、当然ながら最終設立決定が下るまでには長い時間がかかる。例えば、新たなキャプティブの設立やドミサイルの変更自体は親会社にとって大きな決定事項であるにもかかわらず、これらの最終的な決定が下されるまでに数か月、場合によっては数年かかることも予想される。

 一方、ロイズにキャプティブ・シンジケートを持つ利点としては、ロイズのA格以上の格付が自動的に取得でき、更に80 ヶ国で保険の直接元受が可能となるとともに、200ヶ所のマーケットで再保険引受も行えることがある

 またロイズの格付取得により高額の担保要求の回避が可能となり、これにより親会社は担保の縛りなくキャプティブを自由にコントロールできるようになる。 ただしロイズの制度を利用する場合キャプティブ運営のための固定費が高くなる傾向があり、経済的に採算を取るためには引受保険料が最低 3,000 万ドル必要となるという課題もある

2.ロイズの制度に興味を持つ企業

 上記のような事情から、ロイズの制度の積極的な利用を考えている潜在的な顧客の大部分は欧米に本拠を置く巨大多国籍企業である。業種別に見ると、製造業、金融サービス業、テクノロジー関連業界などさまざまな業種の企業が関心を寄せており、例えばある保険企業グループなどはロイズのキャプティブ・シンジケートを再保険プールとして利用したいと考えている。これらの巨大企業は非常に成熟したリスク処理機能を備えており、リスクに対してよりコントロールを確保したいと考える傾向がある。

 これらの企業がロイズのキャプティブ制度利用を検討するのは、いくつかの要因が考えられる。例えば、現在のフロンティング保険会社が提供している保険プログラムに比べより一貫性のあるプログラムへの変更や、より使い勝手の良いドミサイルへの移転を検討している場合、またはA格以上の保険会社が提供する保険についてある程度の規模をキャプティブで引き受けたいと考える場合は、ロイズ利用により必要となる固定費を支払ってでもキャプティブで引き受けた方がより経済的となる可能性がある。

 一方、キャプティブ未所有企業もロイズの制度に関心を寄せてはいるものの、そうした企業にとっていきなり3,000 万ドルもの保険料を引き受けるキャプティブの設立はハードルが高いため、ロイズの制度の利用を考える企業のほとんどは既に他のドミサイルでキャプティブを所有している企業となる傾向にある。

 ロイズにおけるキャプティブ組成のプロセスには6ヶ月かかると言われているが、初めてキャプティブを設立しようと考えている企業にとっては、キャプティブ設立の目的や、キャプティブの戦略的活用方法、また将来自社にとって最適なドミサイルなど検討する課題はより多く、更に長いプロセスが必要となるため数ヶ月から数年かかる可能性がある。 一方、既にキャプティブを所有している企業でも、ロイズでの新たなキャプティブ設立の必要性や、既存のポートフォリオのロイズキャプティブへの移管の是非、およびそのために必要な手段などと言った課題を検討するため、いずれの場合でも意思決定のために必要な社内の検討時間は長くなる。

3.モラルハザード

 ロイズのキャプティブ・シンジケートは、自社グループのリスクおよび関連第三者のリスクを引き受けることができる。

 またロイズのキャプティブ・シンジケートには、保険料決定に際して独立企業間の価格設定に関するルール(Arms-Length Rule)が、そして責任準備金および損害準備金についてはキャプティブに通常適用される標準的なルールが適用されるが、キャプティブが親会社に対してロイズの中央基金を使って保険金支払いを行う場合、モラルハザードからロイズを護るためにキャプティブには追加の資本規制が設けられている

 ロイズ中央基金ロイズマーケット全体を支えている基金であり、その目的は、個別のシンジケートの資本提供者が保険金を支払えなくなった場合に中央基金が介入して顧客に確実に保険金が支払われるようにすることである。

 しかしキャプティブの場合、キャプティブ親会社の立場は中央基金から支払いを受ける顧客と同じとなるため、キャプティブに対する中央基金の適用方法は通常のシンジケートとは少し異なる。具体的には、キャプティブ・シンジケートがロイズマーケットに参入する場合、キャプティブが正味保有する合計保険金の額に対する最低資本金額を設定したものにリスクの変動要素を加味して必要資本金の額を算出する。

 上記で算出したキャプティブの必要資本金の額に比べてリスクが特に不安定であるとロイズが判断した場合、キャプティブ・シンジケートの資本金の額について中央基金が追加担保を要求することがある。そうした追加担保には、親会社の保証、ロイズ以外での再保険手配、銀行の保証状その他の形式のものが考えられる。  例えばキャプティブ・シンジケートが資本金を増強せずに、ロイズ中央基金から支払いを受ける水準までのリスクを保有した結果そうしたリスクに対する支払いが発生した場合それはモラルハザードの問題となるが、ロイズマーケットはそうした想定外の事態に対処する能力も有している。

出典:キャプティブ・レビュー – 2023年11月16日記事


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